恋のパレード

策略の末、結論は -5-

 それからどちらともなくお腹の虫が鳴ったをきっかけに、残っていた夕飯を一緒に食べ、同じ車で家まで送り届けてもらった。
 そして帰り際にまた会う約束をした。
 否、させられた、という方が正しい表現だった。
 先生の微笑みは或る意味、最強なのかもしれない。
 あの笑顔を見てしまえばなかなか断ることは難しいと思う。
 油断大敵とは先生みたいな人をいうのかしら。
 などと考えに耽っていると、女の子らしい高い声が意識を現実へ引き戻す。

「ねぇってばー。常盤ちゃん、放課後は委員会って言ってなかったっけ?」
「え? ……ああ、そうだった。忘れてた」
「しっかり者の常盤ちゃんが忘れるなんて珍しいねー」

 そう言ってふふ、とみのりは楽しげに笑う。
 みのりは中3からの友達で、高校でもずっと一緒にいる今では一番の友達。
 のんびりな口調からは一見想像できないが、たまに辛辣な分析をしたり、見た目が怖い先輩だろうと物怖じせず話しかけたりと肝が据わった人物だったりする。
 そして場を和ませてしまうのだから、なかなかに侮れない。

「ちょっと考え事してたから……でももう行かなくちゃ。ありがとね、みのり」
「うん、いってらっしゃーい」

 無邪気な笑顔で送り出され、急ぎ足で後輩の階へと向かった。
 教室に辿り着くと、ほとんどの席は既に埋まっていた。
 皆早く帰りたいからか定刻より少し早くから始まり、文化祭での主な分担が発表された。
 1・2年は主に準備一式の手伝い、受験や就活に忙しい3年はそのサポート。
 手始めに今年のテーマとテーマソングを各クラスで決めてくる事、文化委員と協力して自分のクラスを引っ張るように、ということが申し渡された。
 それから細々とした説明があって委員会は滞りなく終わり、あたしは書き込みをした資料を折りたたんで鞄へとしまう。
 椅子から立ち上がると、生徒会として委員会に出席していた難波くんが話しかけてきた。

「常盤さん、これから用事とかある?」
「なあに? 特には無いけど」
「ちょっと相談乗ってほしいことがあって…………その」
「……人気がないところがいい感じ?」
「だね、できればその方がいいかな」

 じゃあ、という事でやってきたのは空き教室。
 昔は使われていたらしいけど、今じゃ椅子は全部撤去されていた。
 それにしても本当に便利だなって思う。
 マスターキーを持っている生徒会役員がいると、こうして簡単に入れちゃうんだから。
 あたしは据え置きの長い机に腰掛ける。
 そして、窓側に立っている難波くんの後ろの景色を眺めた。
 まだ空は茜色に染まっておらず、飛行機雲がぼんやり浮かび上がっていた。
 最初の方がだいぶ消えかかっているから明日も晴れかしら、と考える。
 難波くんを見やると、どう話を切り出そうか真剣に考え込んでいる様子だった。
 こっちまで伝わる緊張感に耐えかね、話の口火を切った。

「それで、その相談事って何なの?」
「……うん。堤さんの事なんだけど」
「みのり?」
「そう。俺さ、あの子のことが好きなんだけど、できれば協力とか、して貰えないかなと」
「……協力って、……あたしが?」
「常盤さん、いつも一緒にいるだろ? だから頼むよ、この通りだから!」

 両手を前に合わせて拝まれても、ただただ困惑するしかなかった。
 というか今きっと眉間に皺寄せているわ、絶対。
 恋愛感情に疎いあたしに協力を求めるなんて間違っている。
 そんなこと知るわけないんだろうけど、難波くんは。

「申し訳ないんだけど。そういうのは不得手だから、他の人に頼んだ方がいいと思う」
「頼めるのって常盤さんだけなんだよ。他の女子に協力を仰ごうとして、万が一本人にバレたらどうしろっていうのさ」
「いいんじゃない、その方が。手っ取り早くて」

 つい思ったことをそのまま口に出すと、難波くんは声を大きくして反論する。

「ああ、だからそうじゃなくて! 告白がしたいだけじゃなくて、好きになってもらいたいんだよ!!」

 その必死さに、聞いているこっちまで告白されているような心境になってしまう。
 応援してあげたい気持ちに駆られたけれど、だからといって安請け合いはできない。

「じゃあ、みのりのどこに惚れたの? あたしだって大事な友達を簡単に渡せないもの。誠意な回答をしてくれたら考えてもいいけど?」
「う……さすが去年学年トップをキープし続けた人の台詞は違うね」

 どことなく棘を含んだ言葉に、目を細めて言う。

「茶化すんなら……」
「ああああ、待って、待って言うから! …………放課後に教室で作業してたとき、何度か手伝ってくれたんだよ。それから気になり始めて、可愛いし何より守ってあげたくなるような感じに惚れたんだ――これで満足?」

 初々しいエピソードを本当に暴露してくれると思っていなかっただけに、すぐには言葉が出てこなかった。
 でも何だか、こういう恋愛って微笑ましいかも。
 恥ずかしさからか顔をほのかに染めた難波くんを見て、あたしはわざとらしく声を出す。

「へぇーなるほどねー?」
「な、なんだよ……。ちゃんと答えたんだからさ、返事は?」
「しょうがないわね。友達を騙すようで不本意だけど、ここは一肌脱ぎますか」

 ほどなくして良かった、と安堵する声が聞こえてきて、みのりのことが本当に好きなんだと改めて知らされた気がした。