恋のパレード

大切なのは、過去か現在か未来か -11-

 カチャ。

 鍵のかかる音を背中越しに聞き、内心ホッとする。
 もし先生の気が変わったらどうしよう、と思っていたから。
 靴を脱いで屈むと、隣にいた先生と目が合う。
 家に上げて貰えたことへの実感が湧いてきて、嬉しくなる。
 一緒にリビングへと入り、気付いたときには後ろから抱きしめられていた。

「奈江……。本当は卒業するまで待っていようと思っていたのですが」
「このまま帰れというほうが残酷です」
「……そう言われたら、なかなか帰せませんね」

 くるりと振り返って、困ったように笑っている先生の頬に手を伸ばす。
 伸ばした手の上に大きな手が触れ、わずかな緊張が触れた先から伝わってくる。
 先生は手をぎゅっと握った状態のまま、ゆっくりと告げた。

「それじゃ、俺にください。あなたの心も身体も、すべて」
「……はい」

 初めて入る寝室は黒で統一されたシンプルな部屋だった。
 部屋の入り口で立ちすくんでいると、先生はベッドに腰掛けて手招きする。
 おずおずと近寄ると大きな腕に抱きしめられた。
 すぐに落とされるキス。
 慣れない口づけにぎこちなく応じると、何度も角度を変えながら啄むようなキスの雨。

「……んんっ」

 息もロクにできなくて。
 苦しいと思うのと同時に、求められることの嬉しさも強くて。
 生暖かい舌が自分のに絡んで一瞬びくりとするが、不思議と嫌だとは思わなかった。
 彼の思いが直に伝わってくる気がして、高揚感に包まれていく。
 これまでとは比にならない濃厚なキスに、頭の芯がぼぅっとしてくる。
 背中に回されていた腕に込められた力が強くなったかと思えば、抱き込まれるようにして先生を下にして倒れこんだ。
 それに驚く間もなく、キスの嵐は止まらなくて。
 意識の半分が飛んだまま、されるがままになっていた。

「……はぁっ」

 ようやく空気を吸える瞬間が与えられ、あたしは息を大きく吸い込む。
 けれど次の瞬間、がらりと目線が変わった。
 今まで下にいた先生が今度は上になっていて、いつのまにか組み敷かれていた。
 首筋に降りてくるキスに全身があわ立ち、つい身じろぎしてしまう。
 すると、両腕を拘束されて動かないように縫い付けられてしまった。
 首から鎖骨へ伝ってくるキスは不思議な感じで。
 体の力が抜けていくのを感じながら、もうただ受け止めることしかできなくて。
 胸へ降ってくるキスの合間に時折感じる小さな痛みにも、幸せな気持ちが溢れてくる。

「ん……ふ、ぁ」

 服の上から胸を揉まれて、すごくすごく恥ずかしい。
 先生の手が添えられていると思うだけで体が熱くなっていく。
 やがて乳首を弾かれるようにされて、声が我慢できなくなる。

「やぁ……ん……あン」

 漏れた声にあたしの方が赤面してしまう。

「奈江。むしろ、そういう声はもっと聞かせて……?」

 両方の胸を揉まれながら言われて、あたしはやっぱり声を押し殺そうとする。

(だってこんな声、自分じゃないみたい)

 服を首元まで捲り上げられ、ブラが露になる。
 フロントホックは呆気なく外されて何の隔てもなくなり、すごく心許ない。
 彼の少しひんやりとした手が胸を強く揉みしだく。

「あぁん……んっ!」

 硬くなっていると嫌でも分かる胸の頂きに舌の感触を感じて、声が漏れた。
 吸い付くように舌で愛撫され、思考をまともに動かすことができない。
 片方の胸も同じように、舌で転がされて息が上がっていくのを感じる。
 先生を見やるとすぐに瞳が合わさり、気恥ずかしさがまず込み上げてきた。
 だけど熱のこもった目がそこにあって、思わず見とれてしまいそうになる。
 先生は無造作に首のあたりに残っていた服もブラも、いとも簡単に取り払ってしまった。

「あの……はぁ、んん……ぁ」

 熱に浮かされたような状態だと思考回路もまともに動かない。
 そのせいか、違和感に気づくまでに時間がかかった。

(何、この細い感触……?)

 目を固くつぶりながら意識を下腹部へ集中する。
 すると確かに感じる感触は敏感に感じるところに当たっていた。

「ぁっ!! やぁ、……せん、せ……」
「感じてるんですか? ……大丈夫ですよ、怖くないです。俺がずっと傍にいますから」

 切なげな呼び声にしっかりと返ってくる声。
 そうして、ゆっくりと思考回路が動き出し、余裕が少しだけ戻った。
 だがそれも束の間、唯一残っていた下着とともにスカートを抜き取られ、先生の指があたしの奥を掻き回しながら更なる刺激を与える。

「……だぁっ、め……ぇっ!!」

 堪えきれなくて、高い声だけが零れていく。
 一番敏感な場所を執拗に擦られて、足が痙攣しているのが嫌でも感じる。
 荒い息と小さな水音だけが部屋に響いており、早まる鼓動も抑えられない。

「奈江……いいですか?」

 切なげな視線と何秒か見つめ合った後、ゆっくりと頷いた。
 それを確認するや否や先生は衣服を早々と脱ぎ去り、準備を終えていた。
 あたしは少なからず残る怖さを打ち消そうと目を瞑る。

 ――ったのだが。

 不意に視線を落とすと、彼のモノが自分の秘部へとあてがわれていた。
 先生はあたしの腰に手を当てながらゆっくりと自分の方へと導く。

「……やぁんっ! ん……ぁんっ。……はっ……やぁっ!!!」

 ぬるぬるとした感触とともに彼のモノが這入ってきて。
 体が引き裂かれそうなくらいの痛みが襲い、悲鳴すらも出せない。
 苦痛で顔を歪ませているのが精一杯で、それでも先生の動きは止まらなくて。
 声にならない悲鳴をあげながら歯を食いしばる。

「大丈夫、力を抜いてください。……そう、いい子ですね」

 先生の甘い声に全身から力が抜けていく。
 やがて、繋がった部分から蜜が溢れ出すのが分かる。
 そしてあたしの中へと段々と進んでいき、彼のモノでいっぱいいっぱいになる。
 深部へ到達し、完全に繋がったのが伝わってくると今度は静かに律動が送り込まれた。
 吐息だけの必死の抵抗を僅かながらに試みる。

「ね、……一緒に。奈江」

 眩暈がするほどの、とびきり甘い声に意識を持っていかれそうになった。
 やがて下から激しく突き上げられると、完全に意識が途切れた。

        ......

 事が終わって綺麗に処理をしてくれて、一瞬一瞬が夢なんじゃないかって思う。
 けれど、先生の優しい瞳が、あたしの姿を映し出していて。
 夢じゃないんだと教えてくれる。
 ドキドキしていると、そっと掛け布団にくるまれた。

「風邪をひかないように」

 そう言いながら頭を撫でてくれる手が心地よくて。
 彼の方へ体勢を変え、視線を合わせる。

「あたしは、先生と自分の過去に囚われていたんだと思うんです」
「……どういうことですか?」
「先生の過去にあたしはいない。相原さんを見て、その事実を受け入れるのが怖くなったんです。だって、彼女と話すときの先生はまるで違う人に見えたから」

 昔のことに嫉妬しても仕方ないのに。
 頭でも分かっていても、本当は分かっていなかった。
 何が大切かということに。
 だから、相原さんに言われた意味を理解するまで時間がかかってしまった。
 でも、今はちゃんと愛されていると実感できたから。
 心に広がるのは、とてもあたたかい気持ちで。

「その答えは出たのですか?」
「はい。過去も未来も大事にしていくためには今を大事にしなきゃいけないと思います。だから、今の先生を信じます」

 先生は触れるだけの軽い口付けを落とす。

「俺もそう思います」

 初めての夜は、お互いの手を握りながら眠りに就いた。