恋のパレード

Love Summer! -1-

 月が変わり、衣替えの季節。
 濃紺から一転、爽やかな青空に映える白のセーラーになって。
 いよいよ夏になっていくのだと実感する。
 男女とも上半身が眩しい白に様変わりした姿は、まだまだ新鮮で。

(文化祭が無事に終わって、何だか気が抜けちゃったような)

 クラスの準備に委員の務めに、春から忙しい日々が続いていた。
 今は通常の授業に戻り、早二週間。
 冬服から夏服への移行期間も終了し、今日も気温はぐんぐん上昇中だ。
 あれから、先生との逢瀬は週末になって。
 金曜の放課後は一旦家に帰り、お泊まりバッグを持って彼の家へ向かうのが習慣となりつつある。おかげで、合鍵を使うのにもだいぶ慣れてきたと思う。
 先生の帰りを待つ時間は、まるで新婚さんみたいでそわそわしたりもするけど。

(……あと数ヶ月でそれも現実になるなんて、まだ信じられないわ)

 そもそも、現時点においての家事スキルは残念なもので。
 先生にふさわしい奥さんになるには、まだまだ修行が必要だった。
 料理や掃除にしてもそうだ。
 ほとんどを彼に頼りきっていて、あたしができるのは食器洗いぐらい。
 気にしなくていいですから、と言われても。
 いつまでもその言葉に甘えるわけにもいかないだろうし。

(あ……チャイムの音!)

 急いで玄関に向かい、ドアの向こうの人影を確認する。
 スーツ姿の先生がスーパーの袋を持っているのが見え、ロックを解除する。

「おかえりなさいっ」
「はい、ただいま戻りました。遅くなってしまってすみません。すぐ作りますね」
「い、いえ……お気になさらず」

 本当は自分が作れたらいいのだろうけど。
 実は先日、鍋を黒こげにした前科を作ってしまって。
 それ以来、危ないからとひとりでの料理は禁止されてしまったのだ。
 申し訳なさで俯いていると、頭をぽんぽんと撫でられた。

「着替えてきますから、これを運んでもらえますか?」
「……はい!」

 自分でもできることを与えられ、あたしは意気揚々と袋を受け取る。
 そのままキッチンに行き、中の食材を並べていく。
 そしてレジ袋を畳んでいると、私服姿になった先生がひょっこり顔を出す。

「整理してくれていたんですね。ありがとうございます」
「このくらいしか、お手伝いできないので……」
「そんなことないですよ。とても助かっています」
「そ、そうでしょうか」
「奈江が帰りを待ってくれているから、今日も頑張れたんですよ?」

 先生は疲れた顔に微笑みを浮かべた。
 自分が落ち込んでいるのは見当違いだと言い聞かせ、あたしも笑顔で応える。
 すると、先生の目元が一層優しくなる。

「せっかくですし、今日は一緒に作りましょうか」
「……っ……はいっ。ええと、何をしたらいいですか?」
「では、これを剥いてもらえますか」

 渡されたのはにんじんが一本。
 ピーラーを受け取り、できるだけ丁寧に皮を剥いていく。
 あたしが慣れない手つきで慎重に作業に当たってる横では、先生が鮮やかな包丁さばきで、するするとじゃがいもの皮を剥いていた。

(……う。分かっていたけど、レベルが桁違いだわ)

 食材を均一に刻むリズムも乱れることはない。
 その後、あたしに与えられた仕事は絹さやのスジ取り、ごはんの盛りつけなど簡単なことばかりで。このままじゃいけない、と強く思う。

「できましたよ」

 先生の言葉に顔を上げる。

「あ、いいにおい」
「奈江好みの味になっているといいんですけど」
「先生のお料理はどれも美味しいです。安心する味というか」
「それはそれは。デザートにティラミスもありますからね。何ならプリンもつけますよ」
「…………お気持ちは嬉しいですが、全部食べると太ります」

 渋面で言い募ると、楽しそうな笑い声が続いた。
 ふたりで並んで手を合わせ、ほかほかの夕飯にありつく。
 今日の献立は、焼き魚に肉じゃが、作り置きの煮物、豚汁、漬け物といった和風で。

(そういえば、こないだのグラタンも結構美味しかったのよね)

 和食が多いかと思いきや、先生の手料理はバリエーションに富んでいて。
 インド料理やスペイン料理など、たまに予想しないジャンルを攻めてくるので、彼を越す日が来る夢は今のところ難しそうだった。

        ......

 前までは夕飯を食べて、少し寛いでから家に帰っていたけれど。
 お泊まりが習慣化してきた今は、時間的束縛はなくて。
 みのりから借りてきた洋画を見終わって、ほっと息を吐く。

「子役の子、可愛かったですね」
「ええ。でも、奈江の方が可愛らしいですよ」
「な、な……っ」

 何を言いだすんですか、と抗議しようとした口は既に塞がれていた。
 優しく触れるキスは離れたと思ったら、また重なってきて。
 慣れない口づけに翻弄されている間に、ソファーに押し倒されていた。
 服の裾をたくしあげられ、脇腹に唇が這う。

「……っっ」

 堪らず身を捩ると、見透かされたようなタイミングで耳に吐息が忍びこむ。

「きゃう?!」
「ほら、そういう反応が可愛いです」
「……っぅ……」

 睨んでみるが全く効果を成さなかったらしく、先生は楽しそうに微笑んだ。
 細い指先が、目元にかかったあたしの前髪をかき分ける。
 それから愛おしむような眼差しに捕らえられ、視線が逸らせなくなる。
 どちらともなく目を瞑り、さっきより長いキスに包まれた。

「……んん……」

 唾液が混じり、口の端からこぼれる。
 だけどそれを拭う暇すら与えられず、頭の芯がしびれていく。
 先生はピンクのレースのブラを器用にずらし、固くなった胸の頂きを口に含んだ。

「あぁっ……やぁ……!」

 左右ともに丹念に舐められ、思わず高い声が洩れる。
 胸にぴとりと寄り添う、大きな手のひらの感触に肌が粟立つ。
 先生は、高みへ誘うように大胆に揉みしだく。

「はぁ、ん……っぁ、やんっ」

 腰のラインからお尻にかけて優しく撫でられ、先生の指がショーツに辿り着く。
 湿り気を帯びたそこを指が往復する。

「っっ……! ま、待って……まだお風呂が……」

 耐えきれなくて、先生の腕にすがりつく。

「……奈江は焦らすのが天才的ですね」
「どっ、どういう意味ですか……っ」
「その格好で待ったをかけられるのって結構、辛いんですよ?」
「うう、でも……」

 視線を彷徨わせていると、子供をあやすように頭を撫でられた。

「そんな顔しないでください。仰せの通りにしますから」
「……きゃっ?!」
「疲れたあなたを起こすより、こうした方が早いですし」
「やっ、でも!」
「しっかり掴まってくださいね」

 そう言いながら、あたしの体は横向きで持ちあげられていて。
 視界が急に開けると同時に、遅れて混乱が押し寄せる。

「……ってそうじゃなくて! 先生の腕が折れちゃいます!」
「それこそ、まさか。女性ひとりぐらい抱えられないと、男として情けないですよ。それに暴れたら落ちますよ」
「…………」

 腕の中でおとなしく口を噤むと、先生は無言のまま浴室であたしを降ろして。
 わざわざお姫様抱っこで送り届けてもらった、という羞恥心で顔が上げられない。
 けれど、このまま拗ねているわけにもいかなくて。
 仕方なく着替えを始めようとしたとき、ふと、何か違和感を覚える。
 横には自分以外の気配が、まだあって。

「あのう」
「はい、何ですか?」
「……どうして先生まで服を脱いでいるんですか……?」

 既に上半身が裸だし!

「ひとりで待つのも寂しいですし。ほら、背中の流しっこって憧れだったんです」
「……っっ」

 無邪気な返答に、あたしは悶える羽目になってしまった。
 あまり明るいところで見ることのない先生の体は、筋肉のつき加減も程よくて。
 見ていてホレボレするような男らしさを見せつけられ、思わず喉が鳴った。

(……ってちがう! 落ち着くのよ、あたし!)

 首を横にぶんぶん振り、先生に向き直る。
 が、抗議を向けた先にはタオルで下半身を隠した婚約者の姿があって。

「ってなんでもう全部脱いでるんですか?!」
「じゃあ、先に入って待っていますね」

 言うなり先生は呆然とするあたしを置いて、湯気の中に消えてしまう。

「…………」

 なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
 自問自答するが、あたしを慰めてくれる回答は思いつきそうもなくて。
 諦めて脱衣所に服を折り畳み、先生が待つへ扉の先に向かう。
 浴室に入ると、もうもうとした蒸気が出迎えた。
 立ちすくんでいるあたしの耳に、浴槽からあがる水音が聞こえる。

「ここですよ、奈江。かけ湯をしますから、座ってください」

 腕を掴まれ、促されるままに椅子に腰かける。
 先生がシャワーのヘッドを持って、お湯の出を確認するのを見つめる。
 そして先程の宣言通りに、温かいお湯が肌を伝っていく。

「まだ恥ずかしいですか?」
「は……恥ずかしいに決まってます!」
「まあまあ、そのうち慣れますよ。ね?」
「……う……」
「では、少しだけ目を瞑ってください」

 髪に少し熱めのお湯がかけられ、シャンプーのいい香りがする。
 地肌に感じる先生の細長い指が心地よくて、うっかりこのまま寝そうだった。
 そのまま身を任せていると、トリートメントまでやってもらっていた。

「はい。終わりましたよ」
「次は先生の番です!」
「いやいや、男は自分でできますから」
「四の五の言わず、座ってください!」
「……はい」

 先生みたいに器用ではないながらも、なんとか髪を洗い終えて。

「ありがとうございました」

 髪から滴る水のせいか、先生はいつもよりも数倍色気を放っていた。
 そのまま直視できずに俯き加減で答える。

「ど……どういたしまして」
「そろそろ交代しましょうか」
「え?」

 一息つく間もなく、やや強引に再び座らされた。
 だがそれだけに留まらず、体に巻きつけていたタオルをするりと抜き取っていく。

(あ……! 最後の砦までもが……!)

 文字通り、一糸纏わぬ姿にされてしまった。
 けれど、先生は涼しい顔で石けんから見事なモコモコを泡立てていた。
 柔らかい泡が肌を撫で、みるみるうちに全身を包みこむ。

「……これ、どこのメーカーのやつですか? 泡がすごいですね」
「うちの系列の新製品だそうです。この前、試供品をいただいて。オーガニックで体にも優しいとかで。もしかして気に入りました?」
「ええ、家にも欲しいぐらいです」
「じゃあ今度、知り合いに頼んでおきますね」
「いいんですか?」
「そのぐらいお安い御用ですよ」

 会話をしている間に、あたしの泡はきれいに洗い流されていた。
 そうして一緒に湯船に浸かると、ちょうどいい湯加減に緊張が全身から抜けていく。
 相変わらず、視線はどこへ向けていいものか悩みどころだったけれど。
 だって先生ってば、あろうことか、あたしを後ろから抱えている格好で。
 向かい合うのも困るけど、背中越しに抱きしめられるのも何だか落ち着かない。

(それにしても、すべすべ……。さっぱりしたのに、肌がしっとりしてる)

 改めて試供品の良さを実感していると。

「ひゃうッ?!」

 突然の奇声の原因は、後ろから首筋を這う先生の唇のせい。
 いきなりのキスに、あたしの体は電流が走ったみたいにゾクゾクしていて。

「ちょっ……先生?!」

 両胸の膨らみは先生の手のひらに包まれ、優しく揉まれるたびに声が浴室を反響する。

「や……ぁんッ……はっ、んぁぁ……」

 身じろぎするたび、ぴちゃぴちゃと水音がして。
 イケナイことをしているような気分になり、体の中心が熱くなる。
 それを見越したように、先生の指が既に熱く蕩けきってる秘所へ降りてくる。

「残念ながら、あなたに対しては先生ではいられないようです」
「やぁっ……! ど、どういう……、ぁッ……ふ、ぁああっ」

 ずぶっと這入ってくる先生の指。
 自分の中を掻き乱されるのに必死に声を我慢していると、先生が耳元で囁く。

「初めは卒業するまで手を出すつもりじゃなかった。けれど、今すぐにでもあなたを求めてしまうぐらい、自制がきかないんです」
「……ぁああっ! ……っく、もぉ……だめえぇ……ぁああぁぁんッ」

 一番敏感なところを指の腹で押しつぶされて、あたしは間もなく達した。
 瞼を閉じたまま、先生がそっとキスを落とすのを感じる。
 そのまま甘美な夢の中へ意識は堕ちていった。