恋のパレード

君だけを愛していたい -9-

 場所をベッドに移しても尚、あたしは先生の動きに翻弄されていて。
 喉元にくぐもった喘ぎ声が絶え間なく洩れる。

「んっ……はふ……あああッ……!」

 蕩けきった体は少しの刺激でさえ、全身に甘い痺れをもたらす。
 後ろから水音が弾くような音が繰り返されて。
 シーツを握り、眉根を寄せて悶える。
 だけど執拗に最奥を突き上げられ、一際高い声が悲鳴となって吐き出されていく。

「あぁぁ……っ! せん、せ……ぇっ……ああんッ」

 高速で追い詰められ、彼と繋がった部分から愛液が溢れ出ているのが分かる。
 彼の動きに合わせ、自分の腰も動いていて。
 でも快楽を知ってしまった体は、自分の意思では止められない。

「あ、あ、ああ……ッ!」
「……奈江」

 ふと先生の動きが止まり、背中に体重がかかる。

「今だけ、呼んでくれませんか?」
「……え……?」
「今夜は先生じゃなくて……俺の名前を呼んでほしい」

 切なげな吐息が耳元に近づき、思わず首を竦ませた。
 体が折り重なり、後ろからぴったりと抱きしめられていて。

(……そんな声で言うなんて……ずるい……)

 言われているこっちまで胸が締めつけられそうになった。

「……駄目ですか?」

 駄目なんかじゃない。
 けど、それを一度口にしてしまったら彼への気持ちが溢れそうで。
 逡巡していると、背中に甘えたようなキスが落ちる。
 途端に全身を駆け抜ける痺れが襲い、あたしは息を詰まらせた。
 鼓動が激しくなり、呼吸が浅くなる。
 その間にも先生の唇が背中を滑り、我慢できずに口を開く。

「っ……あき、ら」

 必死にの思いでその名を口にすると、体の向きを変えられて。
 正面には先生の顔があって。

「好きですよ、奈江」

 熱っぽい眼差しに見つめられる。
 金縛りに遭ったみたいに動けずにいると、口を塞がれていて。
 優しい口づけが繰り返され、あたしは吐息を零す。

「は……ぁ」

 うっとりした気分に浸っていると、先生が足をこじ開けて間に体を滑りこませる。
 そして前置きなしに、彼の一部が這入ってきて。

「……んあっ……あぅっ」
「っく……さっきよりキツい、ですね……」
「はぁ……ん、やぁぁ……ふぁっ……!」

 体が揺さぶられ、奥で熱を感じるたびに全身に痺れが襲う。

(気持ちよすぎて……もう何も考えられない)

 すっかり淫らになってしまった体。
 立て続けの刺激に自分の中心が熱く火照り、ヒクヒクと痙攣する。
 それから膝がガクガクと震えだし、先生の腕に何度もぶつかってしまう。

(やだ、自分じゃ止められない……)

 困ったことに震えは全然止まらなくて。
 見かねてか、先生が小刻みに動くあたしの膝をがしりと掴んだ。
 だがホッとしたのも束の間、胸の頂きにキスが落とされて。

「やんっ……」

 噛みつかれるように口に含まれたかと思えば、舌先で器用に転がされる。
 何度も啄ばまれ、堪えきれずに声が漏れた。

「ひゃあっ……あ、ふぅん……あぁん!」

 ただただ、快楽の渦に溺れていく。
 一旦は止まっていた先生の動きが再開され、繋がった部分からは水音がする。
 本能のままに深く求め合い、あたしは何度目かの絶頂に意識を手放した。

        ......

 ゆっくりと瞼を持ちあげる。
 瞳だけで左右を見渡すと、室内はまだ暗くて。
 ぼんやりとした頭で、さっきから自分を包みこんでいる温もりの正体を考える。

「おはようございます。ぐっすり寝ていましたね、奈江」
「……っっ……」

 朝一番に穏やかな笑顔を向けられ、あたしは息を呑んだ。
 どうやら、先生の腕の中で寝ていたようだけど。
 寝顔を見られたという事実に、まどろんでいた意識が一気に覚醒した。

「すみませんっ、重かったですよね? すぐに起きますから!」
「いえいえ」
「う、きゃ……っ」

 起きあがろうとした腕のバランスが崩れ、先生の胸の中に倒れこんでしまう。

「な……何をするんですか……っ」

 鼻をぶつけて地味に痛い。
 正当な抗議をぶつけると、先生はつぶらな瞳でこう言ってきた。

「もう少しだけ、このままじゃダメですか?」
「…………」
「しばらく会えなかった分、こうして抱きしめていたいんです」

 寂しかったのはあたしも一緒で。

「……わかりました。気の済むまでどうぞ……」

 消え入りそうな声で言うと、ありがとうございます、と嬉しそうな声が返ってくる。
 先生の胸に耳を当てていると、彼の規則正しい鼓動が伝わってきて。
 そのリズムが心地よくて、眠気が若干戻ってくる。
 しかし、それを見透かしたように先生が甘い声を耳に寄せた。

「今日は言葉で愛を囁いてほしい気分です」
「……はい?」
「ですから、奈江から愛の言葉を」

 耳を疑う言葉だったが、困ったことに先生の顔は至って真面目だった。

「…………あの。ハードルが上がってません?」
「いえいえ、まだまだ序の口ですよ」
「ソーデスカ」
「俺のこと、好きですか?」
「……す、好き、です……」
「もっと心をこめて。はい、もう一度」
「す……好きですってば! ちゃんと!」

 やけ気味に答えるとくすくすと笑われた。
 非常に不本意だ。
 つい頬を膨らませていると、頬を指でつつかれる。

「あはは。では最後に……俺のことを愛していますか?」
「あ……愛?!」
「してますか? してないんですか?」
「…………愛してます…………」
「小声なのが残念ですが、大目に見ましょう」

 満足そうな顔に、あたしの負けず嫌いの精神が刺激される。

「も、もう、次は先生の番ですよ! あたしのこと好きですか?」
「好きです。かなり、いえ、それ以上に好きですよ」

 一体、いつからこれは羞恥プレイになったのか。

「……っっ……。じ、じゃあ……あたしのことを……その、愛してますか?」
「愛しています。一生の愛をあなたに捧げます」
「…………」
「…………」
「嬉しいんですけど、あのう……照れません?」
「照れた奈江も可愛いですよ」

 だめだ、この人に敵う日はきっとこの先訪れない。
 そう確信させるだけの魔力が、この笑顔には潜んでいる……ような気がする。
 悶絶しそうな幸せと恥ずかしさを振り切り、あたしは口を開く。

「突然、どうしてそんなことを聞くんですか?」
「奈江はあまり好きだと言ってくれないので、確かめたくなったんです。もちろん、あなたの気持ちを疑っているわけではないですが……なんでしょうね。言葉として言ってもらうことで安心したかったのかもしれません」

 しんみりとした口調に、後悔が募る。

「……もしかして心配させてました?」
「難波くんや朝比奈くんと楽しそうに話しているのを見て、何も感じないって言ったら嘘になりますね。いつか誰かに奪われるんじゃないかと、内心ひやひやしていますよ」

 あたしが女性教師と話している姿に嫉妬していたように、彼も同じなのだと思うと。
 申し訳なさの次に、愛されている実感がこみあげていく。

(どうしよう。この気持ちをうまく言葉に表せないわ……)

 もどかしく感じていると、ふと先生が後ろ髪を撫でる。
 優しい手つきで髪を梳かれるたび、くすぐったい気分になった。
 同時に、胸を突き動かす衝動が芽生えて。

「……先生」
「はい?」

 不思議そうな瞳を見つめ、彼の胸に両手を当てる。
 背伸びをして昨夜何度も口づけた唇に、自分のそれを押しつける。
 触れた先から、あたしの心が伝わるように祈りながら。

(……あたしはもう、ずっと前から先生の虜なの……)

 先生の声が好きで。
 その瞳に見つめられる時間は幸福で。 
 笑顔を向けられるたび、優しい気持ちが溢れてくる。
 一瞬で心をさらうのは先生だけ。
 この恋心すべてが、あなたに届きますように。

(誰かをこんなに愛しく思う日がくるなんて、昔は考えられなかったけれど……)

 そっと離れると、先生があたしの両頬を優しく包みこむ。
 もう言葉は必要としなくて。
 引力に引かれるように、唇を重ね合わせた。
 愛しい人がそばにいてくれる幸せに浸りながら、長くて甘いキスに酔いしれた。