Chapter 1 ---参

「…………んんっ……ね…ぇ」

 言葉はうまく出てこなくて。
 その間にも体中をまさぐる手は止まる事なく、大きな手を這わせていく。
 嫌だけど、嫌じゃない。
 相反する心が抵抗することを鈍らせていた。
 気づけばあたしの体に密着していた濡れた制服はきれいに剥がされていた。
 そうして乳首を甘噛みされて一瞬我を失う。

「ひゃぁ……」

 空いている大きな手がもう一つの胸の膨らみを優しく包む。
 そうかと思えば、今度は痛いほど揉んでくる。

「ん……んぅ……」

 胸への愛撫の間にもキスの波は続いていた。
 侵入を防ぐように唇をきつく引き結んでいたのに、強引に口内にぬるりとした舌に絡み取られる。
 その間にも彼の手は下着をあっさりと抜き取り、自分でも直視したことのない秘部へと冷たい手が添えられた。
 まさか、と思ってびくんと体を震わす。
 だけど片方の手で肩を押し付けられるようにされていて身動きが取れない。
 一本の指がゆっくりと差し込まれたときには、頭がおかしくなりそうだった。

「あ……ふぅぅん…っ」

 中井くんは部活の後輩で、告白はされたけど返事はしていない。
 なのにこんな状況になっていて。

「んんん!! ………ぁぁ……ん!」

 太腿を横に開かされて恥ずかしいのに中で動く指の数はさっきより増えて、より大胆に自由に行き来する。
 やがてゾクリとする場所に当たり、強く目を瞑った。

「……はぁ…んん!! ……ぁ、ん……やぁん!!」

 何度も擦るようにその場所を集中的に攻められ、膝ががくがくしだす。
 それが効をなしたのか、不意に上に被さっていた重みが消えた。
 もしかして終わった……?
 ほっと一息ついていると、同じく裸体となった中井くんがあたしの腰を固定して。
 秘所に触れたのは熱くて柔らかいもので何だろうと考えてると、それはぐっと中に押し込まれてきた。
 明らかに侵入してくるのは許容サイズより大きくて、こんなの無理無理! と声にならない叫びを上げた。
 感触だけでも凄く身震いがするのに、本当に入れるのかと疑ってしまう。
 けれど、徐々にいっぱいいっぱいになっていく感覚は夢じゃなかった。

「…………やぁっ! ……ぃ……ああああ!」

 叫びはすぐに痛みに飲み込まれ、自分の唇を軽く噛む。
 そうでもしないと耐えられなかった。
 それに気づいたのか、すぐにまた優しいキスが振って来た。
 触れるだけのキス。
 柔らかい唇の感触があたしのそれに押し付けられていた。
 そしてようやく解放されたと思ったら、下腹部に鈍い痛みが再び襲った。
 きっと全部這入った証拠、だと思う。
 漠然と考えていると、繋がった先から微力な電流が走った気がした。
 彼のモノがあたしの中でゆっくりと動く。
 すごく圧迫を感じるけど、段々と慣らされているのか痛みが少しずつ緩和されている気がした。けれど、今度は大きな波が押し寄せてきて、それに従って何度も奥まで突かれていた。

「ぁ、……っ……はっ! ……あああっ!」

 もはや受け止めきれずに、ぷつりと意識が途切れた。
 瞼を開けると心配そうに覗き込む顔があった。
 しばらく悩んで、聞きたかったことを口に出した。

「……いつから、なの……? あたしの事」
「…………入学式の日、廊下ですれ違ったんだ」

 それ以後、中井くんの口から言葉が発せられる事は無かった。
 まだ、あたしたちは繋がれたままで再び激しく律動が刻み込まれる。
 洩れるのは少し呻いたような声と自分の喘ぎ声だけ。
 でもどこか醒めた心もあって。
 本当は何が聞きたかったんだろう、って自分に問いかけていた。
 そうして出てきた答えは。
 理由を、探していたんだ。
 納得できる理由を。後で自分を慰める事のできる理由を。
 すごく滑稽な事だと思ったけど、そうでもしないと自分を保てる自信がなかった。

        ☆

 11時も過ぎた頃、あたしはのろのろと帰宅した。
 家の電気は点いていなかったと思う。
 でも細かいことを気にかける余裕なんて殆ど無くて。
 いろんなことがありすぎて体の疲労もピークをとうに超え、憔悴していた。
 まずは体を綺麗にしたくて、すぐにシャワーを浴びた。
 何が何だか分からなくて浴室で静かに泣いた。
 どこで歯車は狂ってしまったのだろう。
 こんな関係は望んでなかったのに。
 危機感も何もないまま、家に上がってしまったのが既に手遅れだったのか。
 もう、いやだ。
 ………何も考えたくない。
 ぐるぐると同じ考えに苛まれながら、しばらくシャワーの音で心を無にした。
 やがて皮膚がふやけてきたことに気が付き、さっと体を洗って疲れきった体をベッドに沈めた。


 翌朝、いつもより早く起きたあたしは寝不足のまま家を出た。
 仁志とは顔を合わせたくなかった。
 せめて、もう少し心の整理ができてからじゃないと会話すらまともにできない気がしたから。
 目を合わせてしまったら最後、泣いてしまうかもしれない。
 昔から自分をよく知っている人物だからこそ、そんな顔は見せたくない。
 何を言われるかと思うと怖くてたまらなかった。
 今の自分を否定されたら、立ち直れないかもしれない。
 放課後の時間はあっという間にやってきて、更衣室でぼーっとしてたら聡美が怪訝な顔であたしを見ていた。

「着替えないの? 佐奈」
「……聡美」
「何があったのよ、そんな顔して」
「…………。実は、付き合うことにしたの、中井くんと」
「は?!」

 驚きの声はもっともだと思う。
 だってあたしが聡美の立場だったら間違いなく同じ言葉を発していただろうから。

「それでなんで幸せオーラじゃなくて、沈みきった暗いオーラを出してんのよ?」
「……もう、何が何だか………」
「分かったわ。今日は部活なし、一緒に帰りましょ」

 その言葉に思わず戸惑いの目を向けると、困ったような声が返って来た。

「そんな顔、他の部員に見せられるわけないでしょ。皆心配するに決まってるじゃない。それにたまにはコーチ自身がマネージャーの代わりを務めても悪くないと思うのよね。前々から思っていたんだけど」

 その呟きは、明らかにあたしを安心させるためのものだった。

        ☆

「泣きたいときは泣いちゃいなさいな。私しかいないから」

 久しぶりの聡美の部屋は安堵する場所に違いなくて。
 ほっとしたら、涙が目からぽろぽろ落ちていった。
 ゆっくりと差し出された花柄のハンカチを受け取って涙を拭く。
 それでもまだ溢れんばかりに大きな滴がハンカチをじんわりと濡らしていた。

「で、何があったの。昨日の今日で、いきなりそういう関係になるなんて普通じゃないわよね」

 その声にたどたどしく頷く。
 帰り道からの出来事を順を追って話していく。
 まだ自分の気持ちの整理ができていない中、聡美に話すのは少し躊躇いがあった。
 話しながら、恥ずかしさより後悔の念が強くなるのを感じていた。
 事が終わった後、行為の余韻がまだ残っている体に気だるさを感じつつ、ベッドの下に落ちていた服を拾って。
 だけど、雨で濡れている服を着るのに躊躇っていた。
 そんなとき、不意に後ろから抱きつかれていた。

『……ね、俺……期待してもいい?』

 どこか儚げな声音に目が泳いだ。
 答えなんて、もうとっくに出ているのに。
 少なくとも、さっきの行為の間で考えはまとまっていたはずなのに。
 言ってしまうのを危惧してしまう自分がまだいた。
 でもじわじわと広がる沈黙に耐え切れなくなって、あたしは声を震わした。

『………。付き合う』
『え?』
『あたし、中井くんと付き合う』
『それ本当?』
『うん。でも今日は帰して。服とか替えないし』
『……そうだね』

 その顔はどこか複雑そうだったけど、次の瞬間には安心した笑みに変わっていて。
 つられて笑みを向けたけど、きっと不細工だっただろう。
 それでも中井くんは始終ほっとした表情で夜道を送ってくれた。

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